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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

タベルナで食べる

                       ≪十月十八日≫      ―燦―

   シンタグマ広場を通り過ぎて右折、日航オフィスの前を通り過ぎたと

 ころで、地元ギリシャ人らしき紳士に声をかけられる。

       紳士「ハ~~~イ、コンニチワ。旅ですか?」
       俺 「そうですが。」
       紳士「宿を探してますか?」
       俺 「ええ。」
       紳士「それなら、是非ここへ行って見なさい。安いです  

         よ。」
       俺「ありがとうございます。」

    宿の名刺を渡された。
 名刺を渡すと、さっさと反対方向へ歩いていく。
 呆気に取られていたが、肩に食い込む重いバックパックを一時でも早くお

 ろしたい気持ちでいっぱいだったので、とにかく紹介してくれた宿屋へ行

 ってみることにした。

   だめなら、宿を変えればいいやと言う気持ちで。
 歩いていくと、プラカ地区に入っていく。
 地図の書かれた名刺には、「IRON HOUSE」と書かれている。
 なるほど、安そうな宿だ。
 近くを見渡すと、この宿に似たいろんな安宿が林立しているのが見える。
 ”とにかく、入ってみるか。”

   ドアを開けると、昼間なのに暗くて、階段があるだけ。
 受付のようなものは、見当たらない。
 誰も姿を見せないので、階段を上ってみることにした。
 三階まで上ると、古ぼけたドアに「IRON House Office」と書かれてい 

 る。
 ドアを開けると、ここの主人らしいおばさんが出てきた。
 ニコニコして、優しそうなおばさんだ。

       女主人「いらっしゃい。泊まるのかい。」
       俺  「そのつもりですけど。」
       女主人「ここは、ドミトリーだよ。」

   ドミトリーとは、相部屋のことだ。
 アテネの安宿は、ほとんどドミトリーだ。

       俺  「OK!それで、いくらですか?」
       女主人「一人、40DR(≒320円)だよ。部屋を見るかい?」
       俺  「ええ、お願いします。」

   部屋に案内される。
 そこは、七人部屋になっているらしく、左右にきれいにベッドが並べられ

 ている。
 ベッドの上には、荷物が無造作に置かれているだけで、宿泊者は誰も居な

 かった。

       女主人「あなたは、ここだ。」

   女主人が指差したベッドは、ドアに一番近いベッドだった。

       女主人「貴重品は、預かるけどあるかい?」
       俺  「ノー!大丈夫です。」
       女主人「今はみんな、外へ出ているから誰も居ないけど、あ

          んたで全部ふさがっちゃったよ。帰ってきたら、仲良

          くしなよ!」

                   *

   荷物を自分のベッドに放り投げると、外へ出た。
 部屋も決まり、重い荷物を手放すと、すがすがしい気分だ。
 まず、プラカ地区の中を歩いてみることにした。
 地図はあるものの、まるで迷路のような場所だ。
 歩き回っていると、方向音痴の俺が、今どこを歩いているのか、分からな

 くなってくる。

   まず、日本レストラン「美智子」を探すことからはじめた。
 地元の若者に聞きながら歩き回り、だんだんと探す輪を小さくしていく。
 そんな調子で、歩き回ったせいかか、見つけることが出来た。
 今まで「道子」とばかり思っていたところ「美智子」と言う名前であるこ

 とを発見。

   正面に日本らしい門があり、中に入っていくと、塀の中に中庭があ 

 る。
 その奥に、二階建ての建物が建っている。
 ギリシャでは、庭があるとしても開放的で、日本のように中が見えないほ

 どの高い塀などと言う野暮なものは存在しない。
 閉鎖的な空間が日本らしいという事だろうか。

   アラブの家も日本と同じように閉鎖的なことを発見することになる。
 ・・・などと、日本を馬鹿にしているようにみえるが、民族性だから、仕

 方がない。
 日本建築は、木造建築なもんで、外部からの進入も容易に出来ている。
 だからこそ、建築物を囲い込む塀が重要になってくるのだ。
 ヨーロッパは、大理石などの石で作る建築が主である。
 鍵もしっかりしてて、ドアごとにずっしりとした鍵が存在するのだ。
 塀など不要だと言うことだ。

   香港がそうだ。
 ある医者の家では、営業中にもかかわらず、ドアには常に鍵がかかってい

 て、ドアをノックすると、中から覗き穴を通して、訪問者の確認をするの

 だ。
 患者以外、すべてお断りという姿勢なのだ。
 その辺を理解しておかないと、日本人は閉鎖的な日本を誤解しかねないの

 だ。

   話がそれてしまった。
 門には、引き違いの吊戸がぶら下がっていて、その横にメニューが書かれ

 てある。
 ローマ字で「MICIKO」と書かれた看板もみえる。
 中は静寂だ。
 テーブルについて、メニューを見ると、ここが高級料理店であることが分

 かる。
 ラーメンが実に、100DR(≒800円)もするのだ。

   それがまた、一番安い食べ物とは、驚かされる。
 それを見たとたん、席を立って外へ出る。
 場所だけを確認することにしたのだ。
 もう二度とここへ来ることはないだろう。

   地元の食堂に入る。
 この食堂に書かれた看板が実に面白い。
 食堂なのに「タベルナ」と言うんだ。
 ギリシャの言葉で、食堂と言う意味と同じだと言うことを知らされた。
 食べに来たのに、タベルナとは・・・・・。
 ここの食堂は、地下にあった。

   急な階段を下りると、食堂だ。
 中はかなり広く、四人がけの小さなテーブルが無造作に並べられている。
 壁際と奥に、すでに料理されている食べ物が、何十種類と並べられている

 のが見える。
 料理を見ながら、自分が欲しいと思った食べ物を指差せば、皿に盛り付け

 られてテーブルまで運んできてくれる算段だ。

   カウンターの奥には、料理を作っているおっさんが二三人、忙しそう

 に立ち働いているのが見える。
 テーブルに座ると、まず運ばれてくるのが、ナイフとフォーク。
 そして、一切れのパン。
 これが、乾燥した硬そうなパンだ。
 それに水が運ばれてきた。

   しばらくして、料理が運ばれてくる。
 一品、10~20DR(80~160円)だが、肉料理や魚料理は、20~40(160~320

 円)と倍近い値段となっている。
 その日の予算で、二品以上頼むこともあるが、ほとんど一品どまり。
 その代わり、パンを二切れ、三切れ注文して、水とパンで腹を満たすの 

 だ。
 そうして、食費を安くしないと、やっていけないのだ。
 一国でも多く見て回りたいと思うと、極貧の旅になってくる。

   ”ギリシャ料理は、オリーブオイルが浮いていて、食えたもんじゃな

 いよ!”と言う人が居るのを聞いたことがある。
 なるほど、ギリシャと言わず、トルコに入ってから少しずつ、見るように

 なった。
 CHIOS島からは、オリーブオイルの入った料理ばかり食っているような気が

 する。
 これが、慣れてくると、美味しく思ってくるから不思議だ。
 ひもじいから、何でも美味しくなってくる。

   パックツアーで旅してたら、いきなりこのオリーブオイルの浮いた料

 理にはうんざりしたことだろう。
 少なくとも、インドやイランと違って、食べ物が豊富だ。
 茄子と肉を煮て、ゴチャゴチャにして、固めたものの上にパイを載せて、

 四角く切った物が、「ムサカ」。
 そのほかに、豆のスープ、魚、肉団子、ポテト、マカロニなどなど。
 種類が豊富で飽きが来ない。

   これが美味い。
 安い。
 硬いパンの中にスープが染み込んで、それは美味しいんだ。
 食事の最後に、皿の中をパンできれいにふき取って口に運ぶ。
 あああああこの満足感。
 うれし涙が出てくるのが分かる。
 食べたくても、食べれない苦労。
 これから開放されたのだから。


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